京都の東山で熱いチャレンジをする株式会社ニシザワステイ。世のため、人のためで、おもしろく。そんな想いを持って活動する代表の西澤 徹生さん。前編ではニシザワステイの想いとその活動についてうかがいました。
後編では京町家を活用した事業について、始めたきっかけや、その可能性、町家を活用する上で意識しておきたいことについて聞いてきました。
地元にとっても新しい気づきになっている。再認識したい町家の価値
Q:観光名所も多い東山。東山という街にとって町家はどのような価値があるのでしょうか?
東山における町家の立ち位置は、まさに誇りを取り戻すことにもつながるものだと考えています。自分たちのルーツや起源を知る上でも大事。
私たちが運営する『SIGHTS KYOTO』は、海外の方からの反応はもちろんいいのですが、地元の方々からの反応も同じくらいあります。
海外の人は「Wow!!」と、表面的な魅力(ビジュアル)に素直に感動するんですけど、地元の人だと”心に染みる”ようです。SIGHTS KYOTOは、100年ぐらい前の建物なので、人間で言うと100歳。100歳の方って聞くと、何かこう超越してる感じがあるんですよね。謙虚になれるというか。「私はすごいとこに住んでるな」と、本質的な魅力を再認識するみたいです。
そういうところも建物が教えてくれるとこなんじゃないかなと思っていますね。
地元の良さ、町家は価値のない面倒なものではなかった
Q:宿泊事業と考えると、より規模の大きな場所でスタートすることもできたと思います。なぜ敢えて町家でチャレンジをしようとしたのでしょうか?宿泊事業に取り組むきっかけと合わせて教えてください。
宿泊事業をやるのが夢だったんです。新卒で入社したJTBを選んだのもその理由からです。在職中は、多くの宿泊施設に足を運びました。高級旅館をはじめ、高級ホテル、シティホテル、ゲストハウスなど、宿泊施設はグレードや場所の縛りなく見てきました。
とはいえ、ホテルを開業したいと考えていましたが、具体に何をしていくのかは決めていませんでした。その中でも、最初の一歩は、”人との交流”を大切にしたいという自身の想いや資金的なことから、ゲストハウスしかできないかなとは思っていました。
京都は町家のゲストハウスが増えていたタイミングでしたし、いろいろと調べる中で、旅行者が町家に泊まる理由は地元らしさに魅力を感じてだと感じていました。
どういうものであれ、その地元らしさを反映しないとなと思っていました。それが鉄筋だろうが木造だろうが、新築だろうが中古だろうが建物自体は関係なく、その地域の魅力を反映することが大切だと考えていました。
ゲストハウスも検討したのですが、地元へのメリットなども考え、一棟貸しをすることに。当時はセルフチェックインの宿泊施設が多く、自らがコンセプトにしたい”人との交流”と乖離がありました。そのため、一棟貸しの選択肢を持っていませんでしたが、まわりに先駆け新しい一棟貸しの形をつくり、この課題を解決できるものを作ろうと考えました。
ちょっとラグジュアリーで、モダン。かつ、人と地域の交流ができるようにしました。人と地域の交流は、一対一のコミュニケーションだけでなく、作り手の想いとの交流も意識し、メイドイン京都のものを用意しました。チェックインも既成概念をとっぱらい、対面式。1日1組だけのコンシェルジュとしてサービスを提供することで”人との交流”ができる一棟貸しをつくりました。
建物ではなく、その地域の文化を反映することが必要です。だから新築か既存のリノベーションかはこだわらない。とはいえ、その地域の文化を担うためには、京町家がベストな手段だと考え、京町家を活用しました。身内がこれまで暮らしてきた場所だったことも影響しています。
京都の街中には、少し形を変えることで活用できる町家がまだまだある
Q:SIGHTS KYOTOも同様に町家を活用した素敵なスペースです。京都市内にコワーキングが増えている中で、新しいチャレンジをしたきっかけや、物件と出会ったきっかけについても教えてください。
地元の人と旅行者を交流させることの必要性を感じ、ハブになる機能を作りたいと考え作ったのが『SIGHTS KYOTO』です。その中でコワーキングスペースを設けたのは、京都らしいコワーキングスペースが必要だと思ったから。
旅人にとってそのエリアらしいことができるのが魅力。同様に、ワーケーションをすると考えた時にも期待しているものは、やっぱりその土地らしさだと思うんです。
とはいえ、京都市内で見渡したときに、コワーキングスペースはありましたが、町家を使ったコワーキングがほとんどなかった。また、あっても町家の特徴上(100㎡以下のものが多い)席数を確保しづらいので、その規模が小さめでした。
やっぱり京都らしい場所、京都らしい建物、京都らしいビルなど、地元らしさが残るものでと考えました。この「京都らしさ」を軸に探したときに、たまたまこの建物と出会いました。
地元のつながりで紹介されたものではなく、いくつかの不動産会社で募集していた物件です。有名な大手不動産情報サイトにも掲載されていたので、インターネット上でも物件情報を確認することができたくらいです。この物件は、少しの間空き家になっていましたが、京都の町中には、同じように少し形を変えることで活用できる物件がまだまだあります。
町家の活用方法がわかれば、その魅力の幅が広がる
Q:「SIGHTS KYOTO」は訪れた方から魅力的な場所だとよく言われていますが、ここまで皆さんに好感を持ってもらえるスペースを作れたのはなぜでしょうか?
町家を生かす際に、借り手・買い手にとってハードルが高いのは、どう活かすかのイメージができるかどうかだと思います。
SIGHTS KYOTOもオープンし、1年経ち、1階をバーにしたことをはじめスペースの活用方法を評価いただいていますが、リノベーション前の、キッチンや畳の状態を見ても、この発想が出てくる人が少ないと思います。
当時の1階は畳があって、古い建具が残っていました。キッチン・洗面所・ユニットバス・トイレと、とてもじゃないけど綺麗ではなかったですね。今のイメージとはきっと大きく違う。庭も荒廃していましたが、空間に合わせてどう活かすかを考えて設計しました。そこら辺をどこまでイメージできるかが大切だと思います。
これだけ素敵な物件にも関わらず、活用されなかったのは、この物件をどうやったら活かせるだろうみたいなのが、イメージできてなかったから。僕らの場合は、頭の中に浮かんだけども、頭に浮かんでないと小さな投資ではないので借りれませんよね。
京都で空き家になってしまっている町家もそうですが、汚い、荒廃してるではなく、目的に対してその建物の魅力を引き出し、どう活かすか、その発想がもっとも大事だなとは思います。
町家活用のデメリットは。。。実はないのかもしれない
Q:店舗や商業利用するだけでなく、住居として利用するとしても、現代の生活に合わせたスペースづくりは必須、かつイメージしきれないものがあると思います。このスペースの提案は、ニシザワステイでも支援されていくのですか?
支援していこうと思います。移住者を増やすことができれば、東山の課題である、空き家対策にも繋がります。
また、東山は観光客数が多いので、観光客を受け入れるところはもっとあったほうがいい。新しい事業者を増やすことで、魅力的な場所ができ、観光の新しい拠点が増えることにもつながります。
このような場所を作ろうとしても、東山には建築時の高さ制限があるので、ハードルが高い。どうスペースを活用していくか考えた時に活用できるのは20%の空き家なんですよ。
でもそこからが問題で、所有者の問題だとか、いかし方の問題がある。でも、そこにメス入れたら解決できることがわかってるからこそ、ニシザワステイとして、その解決に乗り出そうと考えています。活用方法に困っている人に知恵を与えるのは、僕らの役目だと思います。
Q:利用してきた側として、町家を活用する上で課題になりそうなことは?
チャレンジする上での課題はないと思います。お金さえあれば何とでもなる。
これは、お金持ちならなんとかなると言うわけではなく、今の世の中、調達方法は山ほどあります。少し調べればすぐに見つかります。自分の預金を活用しないといけないわけではなく、空き家対策などいろんな助成金なんかも出てるいるので、こういったものを活用すれば一歩踏み出しやすいと思います。
なのでハードルがありそうなんだけど、実はないっていうのが答えですね。
例えば思った以上にちょっと直さなあかんなとかっていうのはお金の話で、技術的な話ではないので。
地元を専門家を旅行者を巻き込み、カルチャーとして残るような、温度感がある場を
Q:最後に今後実現していきたいことについて教えてください
東山を世界一にすることと、そのエリアにふさわしい世界一のホテルを作る、この二つです。
前者は、SIGHTSだけで完結するのではなく、外部を巻き込んで活動したいと考えています。これまでの活動の中で、その土壌はできてきているので、このエリアで一丸となるみたいなことが目に見える形でできたらなと思います。
ホテルとしても、投資目的のホテルを増やすのではなく、「みんなでつくるホテル」に取り組んでみたいと考えています。単純にクラウドファンディングではなく、その過程から、出来上がってからも一緒につくれるホテル。
京都には番組小学校という、住民自治組織が街を巻き込み小学校を作ってきた歴史があります。番組小学校を作ったときの想いで、みんなで自分たちが作った、自分たちが誇りのホテルを形にしていきたい。そうすることで、そこに地元の人も来るし、旅行者も来ると考えています。
そこに地域の人だけでなく、さまざまな専門家を巻き込み、カルチャーとして残るような、温度感がある場を作っていきたいと考えていますね。