空き家と人を繋ぎ、想いを紡ぐ「空き家バンク京都」。
年間800軒取り壊されている京町家に紡がれてきた想いに対して、「信頼や人間関係を起点に向き合っていきたい」と熱い思いを語る、空き家バンク京都の代表鈴木一輝さんにお話を聞いてみました。
空き家バンク京都の役割は、空き家の仲介者
まずは、空き家バンク京都の活動について教えてください。
空き家バンク京都では、家のなかにある 「想い」 を大事にして、直すべきものは直し、残すべきものは残し、次世代へと紡ぐ活動をしています。空き家を「探す人」と「貸したい人」を繋ぐことでこれを実現しています。
空き家を賃貸として住まいを探す方に貸し出すだけでなく、店舗として活用してみたいと声をかけていただくこともあります。賃貸に限らず、いろいろなご縁があって町家をシェアハウスやゲストハウスとして運営、「宿撮(やどさつ)」という宿泊と撮影スタジオどちらとしても活用できる取り組みもおこなっています。
さまざまな事業に取り組んでいると言われることもありますが、私たちは空き家(持ち主の想い)を貸していただき、それを想いを持った方に紡いでいるだけなんです。
空き家バンクには公共の取り組みもありますが、この領域で挑戦しようと考えたのはなぜですか?
空き家バンク京都を立ち上げたのには、いくつかの理由があります。
1つ目は、私自身の経験が大きく影響しています。学生時代に起業し、お弁当屋をはじめいくつかの事業を立ち上げました。なかでもホテル(民泊)を運営した時の経験が、今の事業にいかされています。当時は40件ほどの民宿を運営していましたが、仕入れなど非常に大変。費用を抑えることができれば、うまくいく、それを強く感じていました。
もう1つが、世の中に価値を還元すべきだと考えるから。これまで様々な方が、それぞれの想いを紡いできたからこそ今があると感じています。だからこそ、そこに報いたい。空き家の問題を耳にする機会が増え始めているタイミングで、今後大きな問題になると感じたからこそ、この領域に取り組みたいと考えました。
純粋に建築に興味があったことも、大きかったですね。
巡り巡ったものを紡いでいくことが、空き家バンク京都の使命ではないか
人との繋がりによって、空き家を仕入れていると聞きました。どんなことをしているのでしょう?
私たちは市場に出ていない、不動産サイトや不動産屋さんで出会えない空き家を扱っています。
空き家は大きなきっかけがなければ、市場に現れないことが多く、「いざっ」となった時に利活用が難しいことも少なくありません。私たち空き家バンク京都では、所有者の負担にならないように、「現状のまま」物件をお借りして、建物や土地の状態をよいものとして保ち、活用していきます。
売却ではなく、また所有者の元に「その想い」が戻ってくるようにお預かりしています。
お金ではなく、人間関係。人と人の問題解決をすること、そのお想いや活動に投資をしてもらっているからこそ、信頼して空き家バンク京都にチャンスをくださっているんだと考えています。
“お金ではなく、人間関係”。空き家バンク京都の皆さんにその考えが浸透しているのはなぜでしょうか?
わたしたちも事業会社なので、お金は必要ですが、「お金ではなく、信頼や人間関係で活動を進めていきたい」と言い続けているからでしょうか。
私たちは、オーナーさんや、借り手の皆さん、関係してくれる業者さんなど、多くの方々からいろんな価値をもらっています。それは「出会い」や「発想」「チャンス」です。だからこそ、チャンスを人に繋いでいく、担い手になりたいと考えています。
世の中の状況に合わせて物事を進めていくべきで、お金を貰うことが全てではありません。必要であれば、行政など他の人からいただくこともできます。その人それぞれの「価値」があるからこそ、対価の支払い方法は「お金」のこともあれば、スキルで還元してもらう人もいます。スキル交換による家賃免除は、空き家バンク京都の姿勢を体現する活動の1つですね。
京都の空き家に精通する空き家バンク京都が、肌で感じる空き家の現状
京都は空き家が多いと言われています。京都の空き家事情について教えてください。
空き家問題は、日本の大きな課題の1つ。京都市内には「京都市北区の全戸数」に相当する、約11万戸もの空き家があると言われています。これは、全国の空き家の平均個数より多く、全国的にみても空き家の多い都道府県になっています。
特に京都の場合土地柄もあり、複数の物件を所有されている方だとマンションの空室が1つある程度の感覚で空き家だと認識していなかったり、倉庫利用などの利用によって問題に感じていない方もいらっしゃいます。また、「京町家」は文化資産だからこそどうにかしたい、にも関わらず修繕に費用がかかるため利活用できずにいる。路地奥の再建築ができない場所も。想いの詰まった場所だから、子供が帰ってきたら…など、様々な理由で空き家が増え続けています。
空き家だと思っていない人が多からこそ、すぐに住むことができない状態でお声がけいただくことも少なくありません。どうするか考えるタイミングが「相続」だったり、「金銭的に維持するのが難しい状態になってしまった」など、きっかけが非常に少ないことも課題です。空き家バンク京都にお声がけいただいたタイミングで、手を加えなけければならないところはもちろんありますし、残置物がある物件もあります。
空き家の期間が続くと日に日に腐朽してしまいます。想いの詰まった京町屋が維持でいるように、まずは京都にある空き家を利活用で維持していきたいと考えています。
空き家は負債ではなく想いの財産。その想いを残す方法を一緒に考えたい
オーナーの想いを紡ぐために、どんなご提案をしていますか?
基本的に売買ではなく、賃貸を前提としてお話ししています。私たち「空き家バンク京都」がいることで、想いのある京町家を維持する・いかす選択肢を持ってもらいたいと考えています。
印象的な所有者さんがいらっしゃいます。売ることを前提に進めていたものの、所有者さんは想いの詰まった家だからどうにか残したいと考えていました。売却の話が進む中、最後の最後の連絡で空き家バンク京都にご連絡いただきました。
この所有者さんの想いに沿ったご提案、いかし方はなんだろうと、一緒に考えさせていただく中で、売却ではなく、カフェとしてお貸し出しすることになりました。非常に喜んでいただいた所有者さんのお一人です。
空き家バンク京都の今後の活動について教えてください。
私たち空き家バンク京都では、これまで多くの空き家に紡がれてきた想いを次の方にバトンパスしてきました。
いろんな所有者さんの課題・想いに合わせて提案してきたからこそ、その活用方法は賃貸だけでなく、様々な広がりを見せています。売ること、稼ぐことが一番ではないからこそ、想いに応えることが私たちの価値だからこそ、空き家をいかす選択肢が無限にあります。時間がかかっても、期待に応えたいからこそ、一緒に考えたいと思います。
最近では京都府内に限らず、全国から借りたいとご相談をいただいています。町家に住みたいという方もいれば、SDGsがきっけの方、自身のライフスタイルにあわせた居住空間を求めてDIYしたい方など、様々な背景で興味を持っていただいています。
ご希望に合った選択肢をはきっとあると思います。私たちがいることで、町家を維持する(いかす)選択肢をつくっもらえればとても嬉しく思います。